宇治の新茶と寺田の古茶と
          出会いますぞえ  新浜で

 
「新浜」というのは、天ヶ瀬の浜のことだそうです。八十八夜がすぎて宇治で新
茶がとれ出す頃、寺田のお茶はまだ古茶でした。寺田のお茶は、ベタという牛車
に載せて田原を通って新浜へと運ばれてきました。そこには船問屋があって、お
茶は船につまれて京・大阪へと運ばれて行きました。
 「新浜で」というところを 「横浜で」 とうたう人もあるようです。明治になってか
ら宇治茶が貿易商品として横浜港から積み出されるようになったので、そのよう
になったのでしょうか。

   何ぼようても茶こしにゃ惚れな
         末はお寺の掃除番
   何ぼようてもより子にゃ惚れな
         一生板の間で  泣き暮し


 「茶こし」とは茶をこなす人のこと。荒茶を仕上げる行程をやる人のことです。
茶よりは大てい女の人がやりました。二階で仕事する茶よりさんと階下で茶こし
をする茶男さんとが、お互いに悪口のいいあいをしている歌です。

   宇治の西町の片まちに
         あやめ咲くとは  しをらしや
   宇治の町ほどよいとこないよ 
         東山風  そよそよと

 西町の府道より南側は原っぱであやめが咲いていたのだという人もあります
し、美しい娘さんが居たのだという人もあります。
   
   お茶を摘むなら下から摘みやれ
         今年出た芽は  皆摘みやれ
   お茶を摘むなら摘みつけつけな
         いとし主さんの  手が痛む
   古葉まじろが摘みつけつこが
         私の主さん  もむやなし
   いとし主さん焙炉にかけて
         私は茶畑で  うわの空
   宇治はよいとこ蚊の多い所
         くべてやりたや  むろほしや
   宇治の西町は蚊の多い所
         かど屋にかたぎ屋が  あるわいな
 
 「摘みつけ」とは芽の根元のこと。「むろ」とは木の名で、枝をくすべて蚊を追うた
といいます。「かど屋」とは松阪さんの綿屋さん。「かたぎ屋」はお茶師の長谷川さ
んのこと。

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